「通訳者のメモ」と「上司のプレゼン資料」

「通訳者のメモ」と「上司のプレゼン資料」

「私は、上司のプレゼン資料をよく作るのですが、『君の資料はプレゼンしにくい』と必ず言われます。でも、どうしてよいかサッパリ分からなくて…」

という悩みを、研修の受講者から打ち明けられることがある。

そんな時、解決策として浮かぶのが、「通訳者のメモ書き」である。

私は、20代後半~30代の前半、通訳者を志し、日本の通訳学校に通ったのち、オーストラリアの通訳科がある大学院へ留学した。

多大な時間とお金を費やしたものの、その夢を叶えなかったのであるが、それはまた別のお話しということで・・・

「通訳者のメモ書き」には、上司のプレゼン資料作成に役立つ、大きなヒントが隠されていると、私は感じている。

通訳修行時代に身に着けたスキルは、今の私の資料作成の土台となっていると、なんとなく意識はしていたものの、きちんと整理したことがなかったので、

今日は、その点について、考えをまとめていこうと思う。

通訳者のメモ書き

通訳者は、話し手の言語を聞き手の言語に変換するわけだが、変換以前に、話し手の話を書き留める必要がある。

特に、話し手の話を数十秒~数分ごとに区切って、順次通訳していく「逐次通訳」では、メモ書きは必須となる。

まず話し手が、次のようなスピーチをしたとする。

「長い間、A社とB社は競合関係にありましたが、昨年、協定を結び、人的交流や新商品開発に力を入れた結果、売上・利益ともに、大幅成長を遂げました」

その際の通訳者のメモ書きは、以下のようなものとなる。

通訳者メモ

通訳者は、メモ書きを、文章ではまとめない。

文章では、メモ取りに時間がかかりすぎるためでもあるが、それ以上に、文章では、元の日本語に引っ張られて、英語に短時間で変換することが妨げられるからだ。

通訳者は、日本語の意味を、「絵や記号」を駆使して、メモに残していく。

通訳の際は、その「絵や記号」を、英語で表現する。

つまり、日本語を英語に一字一句、翻訳していくのではなく、メモの「絵や記号」の意味を、英語で再興築しているのだ。

通訳者の「絵や記号」には共通ルールがあり、熟練の通訳者は、それらを駆使しながら、時には数十分も絶え間なく続くスピーチを、他言語で、完璧に再構築するのだ。

「絵と記号」の役割

ここで、「絵と記号」の役割について、さらに考えていく。

先ほどのメモの解説は、以下である(私の記憶違いもあるかもしれないので、記号に間違いあれば、ご容赦ください)

 

メモの解説

 

黒字部分は、ものごとの名称を「絵や記号」にしたものであるが、注目すべきは、要素の関係性を明示している赤字部分である。

赤字部分の記号は、要素の関係性を見える化し、内容を一発で理解することを可能としている。

これにより、「通訳者のメモ」は、正確かつ最短で情報を他言語に再構築するためのツールと成り得ているのである。

「通訳者のメモ」と「上司の資料」の共通点

では、この「通訳者のメモ」が、「上司の資料」と、どのような共通点を持つかということについて。

上司がプレゼン本番で求められることは、通訳者が、他言語に情報を変換して伝える行為に、非常によく似ていると私は考えてる。

つまり、部下が作った資料(日⇒英の通訳であれば、日本語に該当)を、自分の言葉(英語に該当)に変換して、発表しなければならないわけだ。

そのため、部下の資料が文章情報ばかりで、要素間の関係性が見えない場合、文章情報を読むところからスタートしなければならない。

プレゼンの本番にそんなことをするのは不可能であり、上司の脳みそは沸騰し、プレゼンは失敗に終わる。

それなら事前に読み込んでおけばいいじゃないかと思うかもしれないが、上司には、とにかく、時間がない。

事前に目を通して、ある程度の理解はしてくれていたとしても、プレゼン本番に、その記憶を呼び起こして、自分の言葉で再構築していくのは、至難の業である。

プレゼン中に、「ええと、これはなんだったっけ?」と、資料を見ながら上司がつぶやくシーンは、まさにそんな状況なのだ。

そのため、部下の資料は、「通訳者のメモ」の役割を果たさなければならない。

上司が、その内容を視覚的に理解し、自分の言葉で説明内容を「再構築」できるものでなくてはならない。

そして、上司が視覚的に理解できるであれば、聞き手の方々も視覚的に理解できるわけで、あなたの作った資料は、プレゼンを成功へ導くツールとなりうるのである。

資料に愛を込めて

以上が、「通訳者のメモ」と「上司の資料」の共通点、そして、上司の資料作成の際の留意点である。

通訳やプレゼンの現場では、見る、聞く、話す、理解するを同時進行で行わねばならず、そのように「テンテコ舞っている」状況に、ぎっしりの文字情報を持ち込むのは、自殺行為である。

テンテコ舞っている上司の負担を最小限に減らすために、部下である自分には何ができるか?

というちょっと上から目線で、でも上司への愛を忘れずに資料を作成するだけでも、あなたの資料は、きっと、上司から認められるものになるはずだ。

投稿者プロフィール

市川 真樹
市川 真樹プレゼン資料コンサルタント
プレゼン資料作成のスペシャリスト。
見栄えを上げる「パワーポイント術」、人や組織を動かす「スライド理論」、魅せる×伝わる「デザインの知識」をベースに、スライド作成代行サービス、企業研修・セミナーを展開中。